鈴木 紗也香:混在する世界を体感する絵画
2016年04月15日(金)

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窓や鏡、部屋の内部を主なモチーフとして、観る者に「内と外」を意識させる絵画作品を発表し続ける鈴木紗也香は、油彩を軸としながら、時にアクリル絵具、リバティプリントが施されたテキスタイル(布)などの異なる素材を部分的に用い、自身の絵画のあり方を探究し続けている。今回の黄金町で実現した展示空間の中で、改めて彼女と交わす話の中からその作品の魅力について探ってみたい。(2016.04.11)

 
_いつ頃から絵画を志すようになったのでしょうか。印象的なできごとや出会いはありますか?


鈴木:画家になった「きっかけ」というような、決定的な何かがあったわけではないのです。小さい頃も他の子以上にたくさん描いていたというわけでもなく、普通だったと思います。 
中学生の頃には大学受験を意識していて、自分は大学という場で専門的に何を学びたいかと探していました。実は「絵をどうしてもやりたい」というより、勉強もできないし、運動もできないし...というような消去法で残ったものでした。中学3年から美大の予備校に通いだしたのですが、それがとても楽しくて。専攻を決めるために一通り体験して、油絵具のマチエール(表面の肌合い)や、実物と異なる色彩を用いてもいい油画の表現が自分に合っていると感じ油画専攻を受験しました。 


 
_テーマとして掲げている「内と外」は、いつ頃から取り組んでいるのでしょう?


鈴木:学部の2年から3年にあたる頃だと思います。長い予備校時代を経て、入学した大学での「好きな事を何でもやっていいよ」という状態に、突然何をやったらいいか分からなくなって。予備校の教育は、ゴールは大学合格であって、大学ごとに求められる道筋を追うような、独特なもの。それが絵のサイズ、時間、課題などすべて与えられたものだったと気づいたのです。「今まで自分は絵を描いて表現してきたつもりだったけど、結局与えられていたもので、何も表現できていなかったのかな」と感じて、自由なのに、自分にとっては逆に自由ではなくなっている、その矛盾がもどかしかった。それが自分の表現というものに真剣に目を向けた初めての時でした。  
そんなとき、大学の課題でもなく春休みにパッと描いた絵が、初めてコンペで入選したのです。それは自分とは何か、その内と外との関係を模索するように描いた作品で、それが今でも続けている作品の軸になっています。
 
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《部屋の中の風景》2010年 / 油彩・アクリル・シルクスクリーン・カンヴァス / 31.8×41.0cm




_今回の展示にもいろんなモチーフが絵の中に出てきますが、例えば絵を描くモチーフはどういうふうに発想したり、見つけたりしているのですか?


鈴木:基本的には部屋の中で、鏡や窓という世界とある世界が繋がり、交わりあうような媒体をテーマに描いています。 
今回出展した小作品8点は、そのテーマをより拡大解釈してドローイング的な実験性を伴っていたり、ちょっと肩のちからをぬいた感覚で描いていたりします。広い意味での「境界」をテーマに、そのとき目についたものが多いですね。絵の中のモチーフをさがす散歩に行くこともあります。「色を見つけに行こう」みたいに。
 
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鈴木紗也香小作品 展示風景

 
 
 
_「色を見つけに行こう」というのが画家らしい発想ですね。色はどう選んでいるのでしょうか?


鈴木:最初のエスキースの段階でおおよそ決めていますが、絵画の場合、色は画面の中での響きなので実際に色を置いてみて軌道修正していきます。補色関係を取り入れながらも、自分の中でその調和を崩しつつ、再びまとまりのあるような状態に構成していくイメージ。
最近では、セザンヌの空気遠近法を取り入れる実験をしています。今回の大きな作品《額縁の中を愛おしく》もそうですが、明度として一番手前にあるものが薄く、一番奥にあるものを濃い色彩のものを置いています。現実だと手前のものが色濃く見えるはずです。でもそれを絵の中で正反対にしている。だから画中のピンクのラインは、一番手前にありながら、強い存在感を保ちつつ、異質な印象になるように、ここだけ油絵具に比べると軽いアクリル絵具で、平面的に描いています。その強さと軽さみたいなものが、画面を横断するように配置しています。絵の中の空間を色彩と矛盾させることにより、現実的でない絵画ならではの不思議な空間が生まれます。

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《額縁の中を愛おしく》2016年 / 油彩・アクリル・布・キャンバス / 1620×3900㎜

 
 
 
_今回の展示を拝見したり、お話をうかがっていると、さまざまな素材を使いこなそうとするこだわりが印象的です。


鈴木:《額縁の中を愛おしく》ではピンクのラインにアクリル絵具を使ったように、他の油絵具を使っているところも、場所によって絵具の溶かし方を変えています。背景などはあまりオイルに溶かすことなく絵具を使っていますが、滲み部分はたっぷりの樹脂オイルに油絵具をたらし込む方法で描いています。まずキャンバスを床に寝かして、このたらし込みを一番はじめに行います。これは自分自身のコントロールが8割、偶然性が2割というような状態で、感覚的な筆跡が残るように描いています。その中に人工的な華やかさをもった装飾の模様が入ってきたら面白いかなと思って、テキスタイルを取り入れたりします。自分の作品のテーマも中と外が混在していたり、色々な相反するもの、別の世界のものが一つの画面上で立ち位置を失って入り交じるというのがテーマなので、ちょっと異質なものが画面の中に入ってくるのは面白いと思っています。

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《揺らぎ》2016年 / 油彩・アクリル・キャンバス / 410×410㎜

 
 

_感覚的な筆致が残るような描き方、これは書き直しはできませんね。


鈴木:はい。でもこういう描き方でしか描けないっていうのはあります。他の作家さんの絵を見て、写実的な絵などに憧れることもありますが、自分はそういう描き方ができるように努力して描くタイプではなくて。もちろんそういう努力して技術を高めていく人もいると思いますが、自分はできないことはできないという一種のあきらめのような...。最初に絵を始めた時の話にも通じますね。自分の理想と自分の中の感覚はやっぱりズレがある。そのどっちが正しいとか、優先順位をつけるわけではなく、描いていたら必然的にこうなっているという感じが多いです。
 
 
_ご自身で感じている今回の作品で今までと違う点はありますか?


鈴木:これまではモチーフに窓や鏡が多かったのですが、今回初めて、画中画(絵の中の絵画)が大きく出てきました。それは昨年岡山県の大原美術館が主催するアーティスト・イン・レジデンス「ARKO」に参加した経験が大きく影響しています。画家・児島虎次郎が生前使用していたアトリエを会場とした約3ヶ月間のレジデンスプログラムで、電気もなく人も訪れないようなところで日の光だけを頼りに絵を描いていました。日が暮れれば手元も画面も見えなくなるので、その日の制作はおしまい。ひたすら一人で「絵画とは何か?」に向き合うような体験で、この期間に50枚以上のドローイングと7点の油彩画を描きました。児島虎次郎という歴史的な背景をもつアトリエだったことで「画家のアトリエを画家が描く」というような今回の作品が生まれたと思います。 
絵の中で絵が生まれゆく場所がある、絵の中に絵があるということや、額縁のイメージであるピンクのラインがあることで、観る人にとってここが現実なのか?どこまでが作品か?というような混在する世界を視覚的に体験できたらいいなと思っています。
 
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_一つの絵の中に複数の物語が隠れているような印象がしました。


鈴木:サイズの大きな作品には必然的に要素がたくさん入ってきますが、自分としてはあまり物語的なものは意識していないし、自分の中に何か特定のワンシーンがあって描いているというわけではないのです。でも、そのニュアンスを予感させたりすることによってその人自身の物語に当てはめてもらったり、ノスタルジーを共有できたらと思います。
 
 
_タイトルの付け方もなにか予感させる感じがあります。


鈴木:これも何か予感や暗示させたりする感じをタイトルに入れたくて。主語や動詞がはっきり名言しなくても文章として成り立つ日本語を使っています。タイトルは絵が完成した最後に決めているのですが、絵を描いているうちに頭に浮かぶ言葉をメモに残しておいて、それらをつなげたりその中からピックアップしたりすることが多いです。


_鈴木さんにとって「絵画」の魅力とは?


鈴木:アートには色々な媒体がありますが、瞬間的に感動できるのが絵画の魅力だと思います。文脈的な評価もありますが、理論が先になくても見た瞬間に感じられるのが絵画の魅力だと思います。その人が何に惹かれているのかということがわかったり。
大学在学時に小説家の川上未映子さんの講演で、「自分の好きなものは自分で選べない」という言葉が確かにそうだなって。私はこういう流し込むような描き方をしていて、視覚的にも好きだけど、それって自分で「こういうのが好きになりたい!」って思ってそうなったわけじゃないから。自分で選び取ったものではなくて、でも琴線にふれるものや、なんか心に引っかかるものっていうものは誰にでもありますよね。それを絵画の中で「自分はこういうのが好きなんだ」と発見できるかもしれない。


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鈴木紗也香「額縁の中を愛おしく」高架下スタジオSite-Aギャラリーでの展示風景



プロフィール 

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鈴木 紗也香(アーティスト) 1988年ロンドン生まれ。2014年に多摩美術大学大学院を修了。近年の主な個展に「ARKO」(2015年・大原美術館)等がある。 2013年に「VOCA展」(上野の森美術館)にて最年少でVOCA賞を受賞。その後スイス・バーゼルや大原美術館へのレジデンスに参加するなど精力的に活動している。 室内風景をモチーフとした内と外が入り交じるような絵画作品を制作している。

個展
「ARKO」(大原美術館/岡山県/2015)
「鏡の中から、呼吸する」(Another Function/東京都/2015)
「Sayaka Suzuki」(utengasse sechzig/スイス・バーゼル/2014)
グループ展
「多摩美クオリティ」(多摩美術大学ギャラリー/東京都/2015)
「Light & Blindness」(Maki Fine Arts/東京都/2014)

ウェブサイト
http://www.suzukisayaka.com




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鈴木 紗也香「額縁の中を愛おしく」展 プレスリリース(PDF:503KB)はこちらから
 

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